自転車でオーストラリアを走りに行ったときだ。
シドニーのバーで飲んでいた。もちろん私が行くところなので安いところに決まっている。
カウンターの上に小銭を並べビールを頼む。バーテンダーがさっとグラスビールを持ってきてビール代分の小銭を取ってゆく。
ここでは飲み終わったグラスを並べてゆくのが粋だ。私も3個目のグラスを並べた。
あらためて周りを見るといろいろな人たちがいる。中にはスーツの下は半ズボンのサラリーマンもいる。さすがオージー(オーストラリア人)だ。
少し年配の男が、普通のビールと黒ビールを別のグラスで割り、とても美味そうに飲んでいる。
向こうのテーブルでは黒人の男女が強烈なマシンガントークでしゃべっていた。一単語すら理解できない。
店の片隅ではジャズのライブが演奏されていた。ピアノを弾いている爺さんが飲み終わったグラスをピアノの上に並べている。すでに8〜9個は並んでいただろう。
演奏の途中でその爺さんがウトウトと眠りかけている。ときどき音が外れたり音が止まったりするのだが他のバンドメンバーはニヤニヤしながら演奏を続けている。
たまにパーカッションの若者がわざと強めにシンバルを叩くとピアノの爺さんはハッと目を覚ます。お客もニヤニヤしながらそれを見て冷やかす。
そんな爺さんも曲の終わりにはしっかりと音を合わせるのだからさすがだ。
乗りのいい曲になったころ客の中から黒人の爺さんと婆さんが踊りだした。他の客も声を出してリズムに乗っている。店内は客もバンドも、そして店員も一つになってスイングをはじめた。
そんな爺さん婆さんを見ていると私の地元鹿児島での花見などの宴を思い出す。
桜の下でご馳走を広げ焼酎を飲んでゆく。誰ともなく手拍子を始めると手を上げて踊りだす。もちろん唄は小原節やハンヤ節だ。
どんな土地にでもそれぞれの心に入り込んだリズムや音、踊りがあるんだな。
そしてそれらをしっかりと体に刻んでいるのはお年寄りなんだ。



